ネパール訪問

先日、ネパールの首都カトマンズでBihaniというソーシャル・ベンチャー/社会起業のオフィスを訪れる機会がありました。Bihaniを訪れたきっかけは、昨年、国連防災世界会議にあわせて執筆した大船渡「居場所ハウス」についてのレポート「Elders Leading the Way to Inclusive Community」を、Bihani代表の女性が読んでくださり、何か一緒に活動できないかという声をかけていただいたのがきっかけ。今回の訪問の際に、一緒に連れて行っていただきました。

Bihaniは主に50歳以上の人(高齢者)の暮らしをサポートする活動をするグループで、Bihaniとは現地の言葉で「朝」の意味。新しい始まりという意味を込めて、この名前を採用したとのこと。
Bihaniは50歳以上の人がそれまでの人生で身につけた経験をいかしながら、再び関係を編み直し、探求し、より良い後半生を実現していけるようにという思いで設立されたグループ。具体的な活動としては、読書会、映画上映会、音楽演奏会、インターネットのクラス、健康に関する活動など様々な活動が行われています。健康に関する活動では、太極拳(Tai Chi)も取り入れられているとのこと。
興味深かったのが、50歳以上の人の手作りの商品をブランディングしたり、写真を撮影してカタログを作ったり、ウェブサイトを立ち上げたりすることで、手作りの商品販売のサポートを行っていることです。また、月に1度、マーケットを開催しており、次回のマーケットではお茶の テイスティング(Tea Bar)を企画しているという話でした。

Bihaniの代表はまだ30代の女性。代表の女性は、ネパールでは社会起業家(Social Entrepreneurship)という言葉が流行ってるけれど、目的を見失ったら社会起業家でなく単なるサービス提供者(Service Provider)になってしまうと話されていました。まず目的が先にあるのだ、と。
Bihaniに集まるスタッフは10人ほどで、大学生を含め理学療法、金融、ビジネスなどの分野を専門とする20代の若者が中心。
加えて、BihaniはAIESEC(アイセック)という学生による国際的非営利組織のボランティアの受け入れも行っており、訪問した際にはインドネシア、中国、台湾の大学生が仕事をしていました。

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ネパール滞在中、Bihaniの方がマタティルタという村を案内してくださいました。マタティルタはネパールの首都カトマンズから西に10数kmのところにある村。国勢調査によると2001年5月28日時点の人口は3,653人、2011年6月22日時点の人口は5,982人。面積は6.2km2であり、2011年6月22日時点での人口密度は約965人/km2となります(参考までに「居場所ハウス」のある大船渡市末崎町の2015年9月30日時点の人口は4,334人。面積は28.88㎢なので、人口密度は約150人/km2となります)。
マタティルタ(Matatirtha)という村名は「母」を意味する「Mata」と、「神聖な場所」を意味する「tirtha」という2つのサンスクリット語に由来します(Wikipediaより)。
村には、村名の由来となっている母の像をまつる神聖な池があり、毎年、母の日にはみなここで水浴びをするという話です。水が湧いているところで洗濯をしている人がいたり、水浴びにきた子どもや若者がいたりと、多世代の人々が集まっているのを見かけました。

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マタティルタでは女性グループが活発に活動されているようで、例えば高齢者住宅でのボランティアをされているとのこと。訪れた際には女性グループは道路の補修工事をしているのを見かけました。

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さらに、村内には集まる場所がないからと、女性グループが村にかけあって土地を提供してもらい、女性が自分たちでレンガを積んで作った建物もあります。お金がないので少しずつ作ってきた建物。まだ建設中のため、建物の前にはレンガが積まれていました。昨年の大震災の後にはこの建物で過ごした方もいたと聞きました。
後日、別の方から聞いた話ですが、マタティルタに限らず、ネパールでは中東の国々の建設現場などへ出稼ぎに行っている男性が多いので、村には男性が少ないとのこと。この話を聞いてマタティルタを振り返ってみると、確かに見かけたのは女性と、子ども・若者の男性、高齢の男性だけで、間の年代の男性は見かけなかったように思います。

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「Bihani」の方がマタティルタを案内してくださったのは、「Ibasho」と「Bihani」が連携することで、村の方々に対して何らかのサポートが可能かどうかを確認するため。今回、村を訪問させていただいたので、今後、やりとりしながらどのような可能性があるかを考えるという話となりました。
その際、女性が自分たちで大切に作ってこられた建物も上手く活用できたらいいねという話となっています。建築に関しては素人の女性たちが作った建物なので、構造的には問題ないのだろうかと(昨年の大震災で倒壊することはなかったようですが)。
ただし印象に残っているのは、「Bihani」の方の話では、専門家にこの建物のアセスメントを依頼することはできるが、アセスメントの結果、地元の人には手に入らないような高価な、特殊な材料を使うことを提案されるのであれば意味がないという話です。
確かにお金をかければよい建物に生まれ変わるかもしれません。けれど、高価な、特殊な材料を使わなければならないことは持続可能ではない。お金をかけるのではなく、地元の人でも手に入る材料を使って、地元の人にでも可能なやり方で、この建物をちょっと良くするための知恵が求められているのだと思います。


※AIESEC(アイセック):世界126の国と地域にまたがり、約7万人の学生が活動を行う世界最大の学生団体。次世代の国際社会を担う学生が自己の可能性を探求し発展させることを目的として、海外インターンシップ事業を行っている。
*「アイセック・ジャパン」ウェブサイトより