大船渡市末崎町の「居場所ハウス」は間もなくオープンから3年を迎えます。
「居場所ハウス」がオープンする少し前から大船渡で生活し、運営のお手伝いをさせていただいていますが、この度、国際長寿センター日本(ILC Japan)からの受託として実施した研究のレポート「プロダクティブ・エイジング(生涯現役社会)実現に向けた「まちの居場所」の役割と可能性~岩手県大船渡市「居場所ハウス」の取り組みから~」が完成しましたのでご紹介させていただきます。
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このレポートは、「居場所ハウス」の歩みの記録になることを意識して書いたものです。日々の出来事をきちんと記録して、地域の方々へ還元すること。これは地域外から運営に関わらせてもらっている者が担える役割の1つだと考えています。記録というと、活動の後から付いてくる「おまけ」だと見なされるかもしれませんが、記録も活動の大切な一部だということ。レポートではこの点についても少し書かせていただきました。
このレポートがプロダクティブ・エイジング、まちの居場所等について議論するための1つのきっかけになればと考えています。
田中康裕『プロダクティブ・エイジング実現に向けた「まちの居場所」の役割と可能性〜岩手県大船渡市「居場所ハウス」の取り組みから〜』長寿社会開発センター・国際長寿センター 2016年3月
目次
- 刊行にあたって(p3)
- はじめに(p7)
- 第1章.背景と目的(p11)
- 第2章.「居場所ハウス」の概要(p15)
- 第3章.「居場所ハウス」の来訪者(p35)
- 第4章.「居場所ハウス」における人々の関係(p43)
- 第5章.「居場所ハウス」の運営体制の変化(p49)
- 第6章.「居場所ハウス」で行われる行事・活動(p69)
- 第7章.徐々に作りあげられていく場所(p87)
- 第8章.「まちの居場所」の役割と可能性(p97)
- 注
- 参考文献・資料
- アンケート調査の概要
はじめに
2000年頃から各地にコミュニティ・カフェ、まちの縁側、ふれあいの居場所、サロン、パブリックシェルターなどの場所が開かれるようになりました。これらの場所を、このレポートでは「まちの居場所」と呼ぶこととします。「まちの居場所」は不登校、引きこもり、遊び場の不足、育児をする親の孤立、虐待、貧困、退職後の地域での暮らし、介護、都市の空洞化、商店街の空シャッター街化、地方の人口減少などの切実な、けれども、従来の制度・施設の枠組みでは十分に対応できない課題に対して、地域の人々自らが向き合い、乗り越えようとする中から生まれてきた場所だと捉えることができ、今では1つの大きな流れを作っています。
このレポートでは「まちの居場所」の1つとして、東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市末崎町(まっさきちょう)に開かれた「ハネウェル居場所ハウス」(以下、居場所ハウス)に注目します。「居場所ハウス」は2013年6月13日(木)にカフェスペースとしての運営をスタートし、日常的に地域の人々が集まる場所になっていますが、ひな祭り、鯉のぼり祭り、納涼盆踊り、クリスマスなどの季節ごとの行事を開催したり、郷土食や生花などの教室を開催したり、周囲には商店や飲食店がほとんどないという地域の状況をふまえ朝市や食堂の運営を行うなど、カフェスペースにはおさまり切らない多様な活動を展開するようになりました(表0-1, 写真0-1~16)。東日本大震災の後、ワシントンDCの非営利法人Ibashoの呼びかけをきっかけとして開かれた場所で、オープン後は地域の人々を中心メンバーとするNPO法人・居場所創造プロジェクトが運営を担っています。
「居場所ハウス」は、Ibashoが提唱する8つの理念に基づいて運営しています。
- 高齢者が知恵と経験を活かすこと(Elder Wisdom)
- あくまでも「ふつう」を実現すること (Normalcy)
- 地域の人たちがオーナーになること (Community Ownership)
- 地域の文化や伝統の魅力を発見すること(Culturally Appropriate)
- 様々な経歴・能力をもつ人たちが力を発揮できること(De-marginalization)
- あらゆる世代がつながりながら学び合うこと(Multi-generational)
- ずっと続いていくこと (Resilience)
- 完全を求めないこと(Embracing Imperfection)
現在社会において生産活動から引退し、面倒をみてもらう存在だと見なされる傾向にある高齢者が、何歳になっても役割を担いながら地域に住み続けること、そして、高齢者も交えた世代を越えた関係を築くことを目指す「施設でない場所」として生まれたのが「居場所ハウス」です。「居場所ハウス」の試みからは、プロダクティブ・エイジング(生涯現役社会)の実現にあたって多くを学べると考えています。
筆者は、「居場所ハウス」がオープンする数ヶ月前の2013年3月末に初めて大船渡市末崎町を訪問しました。2013年5月からは大船渡市内で、2015年9月からは「居場所ハウス」の近くにある山岸応急仮設住宅での生活を始め、「居場所ハウス」の日々の運営に携わりながら3年弱のフィールドワークを続けています。大船渡市を留守にすることはありますが、現在も山岸応急仮設住宅での暮らしを続けています。
このレポートは、「居場所ハウス」の歩みを振り返ることを通して、「まちの居場所」の役割と、それを実現するために共有しておくべき価値を明らかにすることを目的としています。プロダクティブ・エイジング(生涯現役社会)に加えて、居場所、地域包括ケア、地方創生、復興、地域開発など現在社会では様々なキーワードが掲げられていますが、各地で行われている一つひとつの取り組みを丁寧に描くことを通してしか、これらの可能性や課題についての議論を深めていくことはできません。このレポートがその議論の1つのきっかけになればと考えています。
加えて、大船渡市末崎町の方々にとって、「居場所ハウス」の歩みを振り返り、「居場所ハウス」が生み出してきたものを共有するための資料になることも、このレポートの目的です。この点については用語、文体、誌面レイアウトについて工夫の余地があると思いますが、大船渡市末崎町にとって意味ある資料になればと考えています。